26年の結婚生活で、俺は在宅勤務になるまで知らなかった。妻が毎日戦っていたことを。
先月、俺は結婚して26年で初めて、妻を泣かせてしまいました。
原因は、たった一言です。
「なんか、この家、臭くないか?」
こんな恥ずかしい話、人様に晒していいものか、ずっと迷っていました。でも先週、妻が「書いていいよ。同じことで悩んでる旦那さん、絶対いるから」と笑ってくれたので、書きます。
俺、53歳。営業一筋のサラリーマンです。
去年から在宅勤務が週3日になりました。それまで平日の昼間、家にいたことなんてほとんどありません。家のことは全部、妻に任せきりでした。
在宅になって、初めて気づいたことがあります。
夏場、昼過ぎになると、リビングまでふわっと漂ってくる、生ゴミの匂い。
最初は黙っていました。でも6月のある蒸し暑い日、Web会議の直前に匂いが気になって、つい言ってしまったんです。
「なんか、この家、臭くないか?ゴミ、ちゃんと捨ててる?」
妻の顔が、一瞬で固まりました。
「……捨ててるよ。毎日」
それだけ言って、キッチンに戻っていきました。その日の夕飯は、いつもより静かでした。
数日後の夜中、水を飲みに起きたら、キッチンに灯りがついていました。
妻が、ゴミ箱の前にしゃがみこんで、袋を二重に縛り直していました。傍らには消臭スプレー。ゴミ箱のフチを、除菌シートで拭いていました。
夜中の1時にです。
俺は声をかけられずに、そっと寝室に戻りました。
それから意識して見るようになって、初めて分かりました。
コーヒーかすを乾かして袋に入れていたのも、匂い対策だった。新聞紙で生ゴミを包んでいたのも、そうだった。重曹の粉がゴミ箱の底に撒いてあったのも、そうだった。
俺が「臭い」と一度感じた匂いを、妻は料理のたびに、蓋を開けるたびに、一日に何十回も、正面から浴びていたんです。
俺の「臭くないか?」の一言は、毎日戦っている人に向かって「お前の戦い方が悪い」と言ったのと同じでした。
そして、ゾッとしました。もし在宅勤務にならなかったら?俺は今も何も知らないまま、会社で「うちの嫁の飯はうまい」なんて呑気に自慢していたはずです。妻はあと10年、20年、下手したら一生、あのキッチンで息を止め続けていた。俺が気づかなければ、それが「当たり前」のまま、妻の人生は終わっていたんです。
どれも「マシになる」だけで、根本的には変わりませんでした。
妻はだんだん、「もういいよ、慣れてるから」と言うようになりました。
転機は、会社の後輩の家に呼ばれた時でした。
共働きで、奥さんが料理好きの家です。キッチンが、驚くほど匂わない。
「ゴミ箱、どうしてるの?」と聞いたら、後輩が指差したのが、シルバーの四角いゴミ箱でした。
手をかざすと、蓋が横にスッと開く。閉まる時も自動。
「ZitA SQUAREっていうんですけど、これにしてから嫁がキッチンでキレなくなりました」と後輩が笑っていました。
値段を見て、正直ひるみました。約28,000円。ゴミ箱に、3万円弱。
でも、夜中の1時にゴミ箱の前にしゃがんでいた妻の背中を思い出したら、迷いは消えました。
妻には内緒で注文しました。届いた日、箱を開けた妻は「え、ゴミ箱?」と怪訝な顔をしていました。
「この前、臭いとか言って、悪かった。あれはお前のせいじゃなくて、ゴミ箱のせいだった」
妻はスマホで値段を検索して、顔をしかめました。「……高かったでしょ、これ。返品できないの?こういうの」
喜ぶより先に、値段の心配。26年、家計を守ってきた人の、染みついた反応でした。
「返品保証が付いてるから、合わなかったら返せばいい。だから、ひとまず使ってみてくれ」
妻は「もったいない」と「せっかく買ってくれたし」の間でしばらく揺れて、渋々という顔で頷きました。
設置した日の夕方、妻が料理中に、両手にひき肉がついたまま、ゴミ箱に手をかざしました。蓋がスッと横に開いて、トレーの包装をポイ。スッと閉まる。
妻が、ここ数ヶ月で一番いい顔で笑いました。
あれから2ヶ月。リビングまで漂ってきていた、あの匂いはなくなりました。夏場でもです。消臭スプレーの出番が激減しました。夜中にゴミ箱を拭いている妻も、見なくなりました。
何より、キッチンに立つ妻の機嫌がいい。鼻歌が復活しました。
先週、妻がぽつりと言いました。
「ゴミ箱の蓋を開ける時、毎回ちょっと息を止めてたの。それがなくなっただけで、料理がこんなに楽になるとは思わなかった」
毎回、息を止めていた。
26年、隣にいて、俺はそれに気づいていませんでした。
一日3回の食事、365日、26年。妻がキッチンに立った時間を数えたら、気が遠くなりました。その全部に、あの匂いが付きまとっていた。
たまたま俺が家にいる日が増えなければ、たまたま後輩の家に呼ばれなければ——妻は残りの人生も、ずっとあのキッチンに居続けるところでした。俺はそれを、「気づかなかった」の一言で済ませるところだったんです。
その夜、妻がふと笑って言いました。「あれ、結局返品しなかったね」
「するわけないだろ」
妻は少し黙って、続けました。
そこで初めて、妻の目が潤みました。届いた日じゃなく、2ヶ月使って、効果を確かめてから。妻はそういう堅実な人です。
俺は「大げさだな」と笑いましたが、正直、声が少し震えました。
ゴミ箱ひとつで、妻がこんな顔をしてくれる。だったらもっと早く買えばよかった。26年分、遅かった。
ZitA SQUARE
生ゴミの匂いを、一度でも「臭いな」と思ったことのある旦那さんへ。その匂い、奥さんは誰よりも先に気づいていて、誰よりも戦っています。60日間使って合わなければ返品できます。
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